第5話




五日が過ぎた次の週の金曜日は学年登校日だった。

宿題の一部を提出した後にホームルームがあるだけなので、10時には下校となる。

しかし千夏は席を立たず、頬杖をついてグラウンドを見ていた。

千夏の教室は三階の一番端なので、校舎からは離れているグラウンドも眺めることができる。



謙太のことを考えていた。

もう一度がんばろうと決めたけれども、謙太からすれば千夏は全くの他人で、

どんなに想っても会うこともできない。

そして何もできないもう一つの原因は、月曜日に返されたゼミのテストの結果である。








西城高校の合格可能得点とは程遠い得点に、担任に呼び出された。

「飛澤さん、まだ夏休みだからまだまだこれからだけど、今のままだと進路を考え直さないと

いけないかもしれないわ。

・・・この高校はどう?飛澤さんの家からも近いし・・・。」

そう言って指差したのは、偏差値では西城高校より3ランク程下の高校のパンフレットだった。

自分の学力は分かっているつもりだったが、こうはっきり言われるとショックだった。

けれども、千夏は担任の目を真っ直ぐに見返した。

「第一志望は変えられないんです。夏休みは毎日図書館に通って勉強してますし、

これからもっともっとがんばります。

だからこのまま西高を目指します。」

千夏が中間、期末考査の勉強は今まで毎回一夜漬けだったことを知っている担任は、

驚きを隠せないようだった。

しかしすぐに笑顔になる。

「そう、なら私も応援するわ。飛澤さんは数学が一番苦手よね?・・・ちょっと待ってて。」

机の上の問題集らしき本を取ると、コピー機へ向かう。

5分程して戻ってきた担任が抱えていたのは、二、三十枚の数学の問題プリントだった。

「解いたら持って来て。私が採点してあげるから。がんばってね。」

「・・・・・・ハイ。」








プリントは難しい上に両面刷りで、それから毎日格闘しているがまだ五枚残っていた。

それでも、謙太に会いたいと思う。

思わず溜め息を吐いた。



「なに溜め息吐っきょんや。何か悩みでもあるんか?オレが聞いてやるで?」

自分のクラスのホームルームが終わったのだろう、カバンを提げた辰雄がやって来た。

そのまま千夏の前の席の椅子に逆向きに座る。

「うん・・・・・・あっ!辰雄、次の東中の試合っていつ!?」

「おおっ。前の千夏に戻ったな。いつやったっけか・・・んー来週か、再来週か・・・・・・いや・・・。」

はっきりしない。

「教えて!!・・・辰雄分からんの?」

「いや、だってな、オレその試合出んのや。オレ南中やん?」

「知っとるよ、そんなん。」

千夏はだんだん苛々してくる。

「じゃあ辰雄は分からんのやね!?」

「待てってっ。」

辰雄は慌てて教室を見回した。教卓の周りで話をしている数人の男子の中に野球部員を見つけると、

そちらに行き声をかける。

「おい、キノ。次の東中の試合、いつか分かるか?」

「き・の・し・た。田岡、いい加減その呼び方やめろ。東中は・・・・・・って何で飛澤さんこっち睨んどん?」

木下の言葉に辰雄も千夏を振り返る。目が「早く」と語っている。

「ええけん、はよ言え。あいつがキレる。」

千夏としては睨んでいるつもりはない。

ただ必死なだけだ。



勉強も大事だけれど、今しかできないこともある。

今がんばれなければ、例え謙太と同じ高校に入れたとしても、何もできない気がした。



「千夏ー。試合、明日らしいわ。」

辰雄が気まずそうに頭を掻きながら戻ってくる。

「はやっ!」

でも好都合かもしれない。

「千夏もう帰るんか?一緒に飯でも食うて帰ろうで?」

「ごめん。あたし今からやらないかんことあるん。」

そう言って担任から渡されたプリントを机の上に広げた。



今日中に終わらせてしまおう。

待っていても何も変わらない。

今度はチャンスの前髪を、掴んで、離さないように。









「手伝ってやろか?」

「・・・・・・辰雄、この前の数学のテスト15点やんか・・・。」













   





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