第4話




東中学校の試合は、応援に来る女子生徒が多い。

これは千夏が何度か東中学校と南中学校の試合を観に行くうちに気づいたことである。

一年間観に行っていると、顔見知りになった生徒も何人かいて。

彼女達がここに来る目的も同じらしく、謙太の人気の高さを知らされた。

謙太を想う気持ちは負けないと思っていたが、自分が知ることのできない謙太の学校生活を

知っているのは羨ましかった。










辰雄はセカンドを守っていたが、先程悪送球でエラーが記録された。ヒットも出ず調子が悪い。

うまくいかなかった後のリアクションが大袈裟に見え、スタンドからは小さく笑いが漏れる。

2年生の時からレギュラー入りしているし、現在も4番バッターであるから、

決して実力がない訳ではない。

「アイツ飛澤さんが応援に来たら、気合い入りすぎてボロボロになるんよ。」

いつか同じクラスの野球部が、苦笑交じりに言っていたのを思い出す。



「わぁっ!」

一方謙太は今日四個目の三振を奪い、スタンドでは歓声が上がる。

千夏はその歓声で謙太を見つめていたことに気づき、とっさに目を逸らした。

何度目だろう。

謙太のプレーの一つ一つにスタンドは沸き立つ。

そしてその度に、千夏は謙太から目が離せない自分を自覚した。

「謙太君はカッコええと思うよ。」

千夏の様子に気づいた朋子がポツリと言った。








試合は4対3で東中学校がリードしたまま最終回に入った。

その9回表に南中学校はツーアウトながら、二塁三塁という逆転のチャンスを迎える。

バッターボックスには4番田岡辰雄。

ツーストライクから力いっぱい振ったバットから、セミの声にも負けない快音がした。

「ホームラン!?」

スタンドの応援みんなが立ち上がって、ボールの行方を目で追う。

白球は夏空に高く上がり、飛距離はどんどん伸びていく。

「うそ!?・・・信じれん。」

朋子は驚きのあまり口を開けたまま、走り出した辰雄を見つめる。



千夏は謙太を見ていた。

6回からマウンドを譲り、レフトを守っている。飛んできたボールを追って、全速力で走る。

その一瞬。

目が合った
───いや、きっと私の気のせい。

謙太がフェンスのギリギリまで下がって、思いきり飛び上がった。

「届いて!」

無意識に声が零れた。

白球がグローブに吸い込まれる。



スリーアウト。試合終了。















正午に近づき、日差しは鋭さを増した。買ったばかりのアイスキャンディーが食べる前に溶け始める。

三人は並んで、一時間に二本しかないバスを待っていた。

「くそー川原、おいしいとこ全部持ってきやがって・・・。」

辰雄は苦虫を噛み潰したような顔になる。

「もうちょっとで千夏にええとこ見せれよったのに・・・。けど今日オレ、カッコ良くなかった?

・・・・・・千夏ー?」



嫌いになろうと思ったのに。

どうしてこんなに、悔しくなるくらい格好良いと思ってしまうんだろう。



千夏の顔を覗き込んだ辰雄は、千夏が心ここにあらずなことを知る。

「・・・オレ、そんな惚けるほどカッコ良かったか?」

「・・・・・・田岡君はバカなんが致命的よねぇ・・・。」

驚いたように言う辰雄に、朋子は溜め息を吐いた。





図書館での謙太を忘れた訳ではなかった。もしかしたら、性格は最悪なのかもしれないと思う。

けれど、白球を追う謙太はただ輝いて見えて。

ずっと応援したいと思った。

だから、もう一度がんばりたいと
───













   





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