第12話




家に帰っても勉強ははかどらず、早々にあきらめて、ベッドに横になり、ぼんやりとしていた。






謙太のことをすきになったのは、二年生の時。




謙太に一目惚れした二週間後に、朋子を誘って、再び東中学校の試合を観に行った。

「千夏ー、そのすきになったピッチャーは、どこにおるん?」

他校で、更に背番号こそ違うが、同じユニホームなのだから一度見ただけの選手なんて、

朋子には見つけられる気がしなかった。

「ほら、あっこの今ボール投げた人!!謙太君って言うんやって!」

けれども千夏は、即座に答える。

「あんな遠くにおるのに、よく分かるねー。」

謙太から全く視線を外さない千夏を、朋子は呆れたような、感心したような気持ちで見ていた。






彼の笑顔を見るだけで

姿が見れるだけで

しあわせだと思っていた。



それからは、辰雄に東中学校の試合の日程を教えてもらい、両手の指を使っても数えられないくらいの

回数の試合を観に行った。



「今日も東中勝ったなぁ!!」

試合が終了した後、千夏は嬉しそうに朋子に話しかける。

「……いや、けど南中負けとるけんね。田岡君凹んどるよー。」

「ちょっ、つきこっ!!謙太君!今、こっち見たよね!?」

「……聞いてないし…。」

「今日来てよかったぁー。」




謙太が自分の方を見たかもしれない、それだけで、顔が赤くなるのが自分でも分かった。







彼のチームが勝つだけで、目が合うだけで、どうしようもなく嬉しかった。

けれども謙太の姿を見て、反対に切なくなることも、沢山あった。

「川原君、お疲れさま!」

「川原君の試合、応援に来たんよ!」

「あ、マジで?ありがとう。」


試合の終わった謙太と、女子生徒二人がスタンドの一番前の通路で、話しているのが見えた。


「明日の数学の予習もうした?川原君当たっとったよな?」

「そうやっけ?」

「そうやって!出席番号で、うちまで当たっとるんやけん。」

「危ね…教えてくれて助かった!」

謙太が笑う。





その笑顔が、だいすきなはずなのに

笑いかけた女の子が、わたしじゃないことが

切なかった。


「…わたしも謙太君の応援に来たんやけどなぁ……。」

思わず一人でつぶやくと、余計に惨めな気持ちになった。

「話しかけてくれるん待ちよっても、何も始まらんよ?」



朋子の言葉が、図星過ぎて胸が痛い。

それでも、もし同じ学校だったら、もし同じクラスだったら

きっと、この関係も変わっていたんじゃないかと思うわたしは、

卑屈で、臆病で、そのたった一歩が


ずっと踏み出せなかった。



今、せっかく彼にこの気持ちを伝えられるくらい、

気持ちを教えてもらえるくらい距離が縮まったのに、



今までのまま、

自分の中だけで

この恋を

終わらせたくなかった。



伝えよう。


すきだって。


ずっと前から


初めて会った時から





大すきだって。















   





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