風の向こう



『続いて、台風11号に関する情報をお伝えします―――。』



今日、ホコリを被ったテレビから、何度繰り返されたか分からないコトバ。

大型の台風が、この島を直撃するらしい。

夜になって、予報通り強い風が吹き始めた。

カーテンが大きく広がり、冷たい風が部屋を廻る。

昨日の夜までの寝苦しい蒸し暑さが、嘘みたいだった。



だから、いつもより早く眠りについた。



目を覚ますと、まだ部屋は暗い。

感覚で目覚まし時計をたぐり寄せて、見る。

午前2時14分。

起きるのにはまだ早過ぎのその時刻に、溜め息が漏れた。

もう一度眠ろうと目を閉じるけど、睡魔は私の元から去ってしまっていて。



眠らなくちゃいけないのに。



明日で夏休みが終わる。あっという間の夏休み。

このまま起きて本でも読めば、明け方頃に眠くなる。

それで眠れば、次に目を開くのは、太陽が真上を過ぎた頃だろう。

最後の一日に、そんな過ごし方はしたくなかった。



それにしても―――風の音がうるさい。



舞い上がるカーテンと共に、それは私の気に触った。

窓、閉めようかな。でも暑くなるかな。

そんな事を思いながら、しばらく窓を見つめていると



また、風の音。



一瞬遅れて、カーテンが風を受け、大きく膨らむ。

強い強い風。

そのあと私の目に映ったのは



一人の男の子。



「行こうよ。」

彼は言う。

言葉が出なかった。

驚いて。そう、ただ驚いて。



「行こう。」



再び、彼は言う。

「何処に?」

尋ねても、何も答えてはくれなかったけど

代わりに少し笑うから

「ピーターパンみたいだね」

私も少し笑って



彼が差し出した手を、握った。



さぁ、何処へ行こう?



                                       The End



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