四季に捧げるセレナーデ

〜冬〜

まったく、高校生活なんて面白くともなんともない、

朝起きて、遅刻寸前に学校に滑り込んで、ああ、チャイムがなっても先生が来なかったら

セーフだよね、

退屈な授業の間、友達としゃべって、メールを送って、適当にノートを取って、

帰り道、店によって服をみて適当なファーストフード屋でご飯食べて。

喫茶店のアルバイトやって、

あーあ、退屈、何か面白いことないかな?

そう思って一年過ごして、もう一年、高校2年生の冬休み、いい加減進学考えなくちゃいけなくて、

でも、内申点は多分最低、先生からボランティアでもやれば調査書に書いてくれるというから

友達の若葉にそんなのない?ときいてみた、

若葉は携帯をつい最近持ち始めたという筋金入りの流行おくれだ。

制服は私みたいにスカートを切って短くしてはいずに、珍しいくらいに長い、

その上、あんな退屈な授業まじめに受けて成績もいい私みたいなのとは先生の受けも違う、

典型的ないい子ちゃんだ。

でも、実は案外、性格もいいし(良いというわけではない)嫌いな先生などおいおい、と思うほど

こけおろす。

ノートも見せてくれるしテスト前には出るところを教えてくれるし・・・・

他のクラスのまじめちゃんみたいに私ら不良といわれるカテゴリーを軽蔑したような目で見ない。

変わってる、そういうやつだ。

若葉は子供好きでよく保育所のボランティアに参加している。

何でもお母さんが保育士だそうだ。

「は?あんたがボランティア?今日・・・槍でも降ってくるのかなぁ・・・・」

ほら、そういうやつだ。

「河合のやつがさ、ボランティアしたら進学するとき有利だって。」

河合というのは担任のことで、数学の教師だ。

こいつは私は嫌い、まじめちゃんばかりに甘くて、私のことをどうしようもないやつだって目で見てくるからだ。

気に入られているはずの若葉も態度の違いには閉口している。

「それで?やるの?ふーん」

目線を手に持った本に向けながら若葉は気のない返事をもらす。

本とパソコンがないと生きていけない、といつも若葉は言っている。

まったく、携帯がないと落ち着かない私みたいなものか・・・・

「ないの?」

「あるわよ、でもバイトは?」

「いいの、どうせ店改装するから冬休みの間ないんだ。」

だからボランティアなんぞやる気にもなったのだが・・・・

「じゃぁ・・・・・・今度保育所でクリスマス会やるからそれ手伝ってよ、子供と遊ぶだけでいいし・・・・

小夜だって、めんどくさいことイヤでしょ?」

はい・・・そうです・・・・・

気が利く、というよりは割り切りすぎた若葉の台詞、

「それじゃ、明日早速手伝ってね、河合のやつには適当に小夜に都合が言いように言っといてあげる。」

いつもは性格も悪けりゃ人付き合いも悪い若葉が天使に見えた。

あーあ、小夜のおかげで本のページわからなくなっちゃった。

でも小夜がボランティアねぇ・・・・

小夜はそれなりに美人だと思うし、茶髪にピアス、先生方は気に入らないみたいだけど

似合ってるんだから別にいいと思うわね、

最も健康上あまり良くないかしら?

髪染めの薬品もピアスも体に害のある物質が入る危険があるし・・・

それがガンを招くこともあるしね。

ってことで私は両方していない、スカートが規定の長さなのは寒いから、

それと折るのがめんどくさいし、短いのって似合わない。

さーて、小夜のやつにどんなことさせようか?

我が愛する友人にねぇ・・・・・

次の日、若葉につれられてやってきたのはやけにでかい家だった。

「ここだれんち?」

「ああ、駿河省吾って知ってる?」

「んや」

そんな名前聞いたことがない。

「まぁ結構有名なピアニストなのよ。ここはその実家。」

「ふーん。」

知ってるほうがおかしいわ、私が知ってるのは最近はやってる曲よ。

どうせお堅いクラシックのピアニストなんでしょう?

なんでそんなとこに?

「私がピアノ習ってたの知ってるでしょう?」

そりゃ、だって今年の合唱コンクールでうちのクラスの伴奏したのあんたでしょう?

学校に残ってしかもピアノを弾くなんて物好き、うちのクラスあんたしかいないわよ。

「それがここなの、駿河省吾の姉の秋枝って人が先生。」

「ふーん、すごいねぇー」

気のない返事に若葉は怒った風でもなく、玄関のチャイムを鳴らした。

「秋枝さんはうちの母さんの同僚よ、保育士なの、だからその関係。」

なるほど、

「はい」

あれ?てっきりその秋枝って人が来るのかと思ったらドアを開けたのは同じ位の年の

男の子・・・・・・

私らの高校の男なんてガラが悪くて幼稚で大声で笑い転げる、女の子のことしか考えていないような

バカ面なのに、それと比べてそいつはなんだか雰囲気がとっても綺麗だった。

顔立ちは男っぽいし、結構カッコいいのになんだか子供っぽいと感じてしまうのは

澄んだ目のせいだろうか?

「こんにちは、晶、秋枝さんは?」

「母さん、今日はいないんだ。中はいれよ。」

晶・・・・あきらって言うんだ・・・

なんとなく、ときめいてしまった・・・・・現金な自分・・・・・

中に入って、大きなソファに座っていると、晶が手に楽譜を持ってやってきた。

「これと、これ、クリスマス会で演奏するって省吾おじさんが。」

「わかったわ、」

若葉はそういってぺらぺらと楽譜をめくる。

「ああ、そうだ、晶、この子、今度うちのクリスマス会手伝ってくれる同級生の小夜、」

「そうなんだ。」

笑うしぐさも子供っぽい、かなり大人びて見える若葉と一緒だと姉と弟のようだ。

「小夜、これが近江晶、ピアニストの卵よ。」

ピ、ピアニスト〜?

私とはまったく無関係の人種ねぇ・・・・・・

「近江晶です、」

「坂上高校の音楽科、なのよ。」

坂上〜?あの有名進学校の〜?

「春日・・・小夜・・・・です・・」

「春日さん、よろしくね。」

ダメだ・・・・・やられた・・・・・・・・・

頭の中に天使のトランペットが聞こえる・・・・・

この日、私は恋というものがどんなものか初めて知った気がした・・・・

翌日・・・・

「小夜・・・小夜・・・生きてる?死んでるならいいんだけど生きてるなら返事ぐらいして頂戴。」

なんていう友人だ・・・・・

頭の上で若葉がしゃべっている。

「あんた、昨日からずっとそうね。もしかして晶に惚れた?」

どうしてこう、若葉は鋭いのよ!!やっぱり超能力もってるんじゃない?

「・・・・・・もしかして・・・図星?」

「うー」

うなってみる・・・・

「あら、それならいい話があるのよ。」

なぜこの若葉は動じないのよ−ーーーー

「チャンス、造ってあげる、」

にやにや若葉が笑っている。

「晶、彼女いないわよ、というか女の子と付き合ったこともないだろうし・・」

「あんたは?」

すると若葉は5分間大爆笑し続けた。

「ありゃ、うちの弟みたいなものよ。それと、ほら、メールアドレス。PCのだから。」

目の前にある白い紙、

「小夜〜私、お腹すいたなぁvvvv」

「何でもおごらせていただきます。」

結局、若葉にケーキセットをおごらされた。

世の中がクリスマスシーズンに沸く中、

私と若葉は2人で寂しくラッピングの作業をしていた。

「若葉〜これ後いくつ作るの〜」

「あと34個、がんばって。」

器用な若葉と違って私はとことん不器用、このクリスマスプレゼントのリボンだって曲がってしまっている。

クリスマス会の際、子供たちに渡すプレゼントのラッピング、

そうはわかってはいてもめんどくさい。

その時、携帯の着メロが流れた。

私のじゃない、私のは有名アイドル歌手のだし、かかっているのはちょっと前にはやったもの、

「はい、横内です。晶?」

若葉の言葉にどきりとなる。

結局、680円もした彼のアドレスは使われぬまま・・・・・・・

机の奥にしまいこんである・・・

「・・・・わかったわ、母さんに言っとく、ありがとう。」

険しい顔で若葉が携帯を切る。

「何かあったの?」

「・・・・省吾さんが帰って来れないんですって。」

「へぇ?」

「ヨーロッパに遠征中だったんだけど・・・・・ちょっとした事故があって捻挫しちゃって帰れないのよ・・・・」

「いつまで?」

「一週間は安静にって。」

「ねぇ、」

「なあに?」

「省吾さんて、ピアニストだよねぇ?」

「そうよ、」

「どうして、その人が帰れないと困るの?」

あ、若葉、今本気であきれたな?

「・・・言ったでしょう?毎年、省吾さんがクリスマス会のときにここで何曲か引いてくれるのよ、

それであと3日でクリスマス会でしょう?」

「だめじゃん!!」

大変だー

「・・・・・・・・はー」

若葉はため息をついてお母さんにそのことを話しに部屋を出て行った。

へーヨーロッパかぁ・・・・・・・・・・

どこの国だろ?フランスかな?イタリアかな?

そういえばこの前行ったイタリア料理店美味しかったなぁ・・・

そんなことを考えていたのだが、どうしようもないので、中断していた作業を再開した。

そして、クリスマス会、あんまりにも若葉が忙しそうなのでピアノをどうするのか聴けなかった・・・

でもちゃんとピアノリサイタルってプログラムに書いてるし・・・

どうするのかな?と思っていたら・・・・・・・・

暗くなった会場、グランドピアノにだけは照明が当たるようにしている。

子供たちが怖がって私に擦り寄ってきた、可愛いvv

そして・・・・・彼がやってきた、ちょっとはにかんで照れくさそうに、でもまっすぐ前を向いて、

子供たちに一礼すると、ピアノの前に座って・・・・・・

鍵盤を踊る指、聞いたことのあるメロディ、

はっ、と気付くと演奏は終わっていて、

若葉の指示通り、園児たちは皆立ち上がって彼の演奏に合わせてジングル・ベルを歌っていた。

「成功、晶もなかなかやるわね。」

いつの間にか隣で若葉が楽しそうにカメラを園児と晶に向けていた。

「ねぇ・・・・・若葉。」

「なに?」

「焼きまわししてね。」

「まかせて。」

前言撤回、やっぱり、恋というもの・・・・・・・

一目ぼれというのはこういう気持ちを言うんだと思う・・・・・・・・

〜春〜へ



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